メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
遠い所でプルルルと電話の音がする。無意識のうちに安西は電話を取った。
「もしもし…」
「あなたどこにいるの?連絡したのに返事もくれないし」
二日酔いの頭にキンキン声が響き渡る。
「なに?母さん?出張中だけど」
擦れたような声がようやく出た。
「灯里ちゃん、いい子じゃないの。どうしてもっと早く連れてこないのよ」
そこで、一気に目が覚めた。
「は?どういうことだ」
「あなたが連れてこないから、晴夏に頼んで連れてきてもらったのよ。本人には知らせずに連れてきたみたいだったから、灯里ちゃんはびっくりした様子だったけど。いい子を選んだわね。お父さんなんて可愛い娘ができたって大喜びよ。今度はちゃんと二人で来なさい。じゃあね」
切れた電話を持ったまま、安西は愕然としていた。
慌てて隣で寝ている今西を蹴飛ばす。
「おいっ!晴夏がとんでもないことをしでかしたぞっ」
今西が頭を押さえながら起き上がった。
「蹴るなよ。晴夏が何だって?」
「あいつを実家に連れて行ったらしい」
「あいつ?」
「だから、灯里だよ」
名前を呼ぶのは初めてなので、気恥ずかしくて大声で喚いた。
「ああ…。前から、お義母さんが会いたいって言ってたからな。晴夏にも会わせろって散々せっついてたみたいだし。当たり前だろ?息子の嫁の顔も知らないんだから。妻に会ったことがないお前の方が異常だということを忘れんなよ」
今西は、面倒くさそうに答えるとまた横になった。
安西は頭を抱えた。
晴夏の奴、よくも勝手なことをしてくれたな。
灯里も!
晴夏には気をつけろよって言ったじゃないか。写真にだけど。