メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
安西はすっかり目が覚めて、ボーっと布団に座っていた。
灯里が安西の実家を訪問している間、奇しくも、安西たちは灯里の村に来ていた。一緒に来てくれたいとこの新次郎は別の部屋で休んでいるが、ここは灯里の祖父の家だ。
昨日は一日村の視察をし、菓子職人である新次郎が、村の名物になりそうな菓子をたくさん試作してくれた。作業場になった吉田さんの家には、入れ代わり立ち代わり村人が来て、明らかに「灯里ちゃんの旦那さん」を見に来たことがわかる。「灯里ちゃんはええ子やろ?」と誰もが自慢気に言い、灯里とは会ったことすらない安西は返事に窮する場面も多々あった。
「お前、本当のことを知られたら生きて帰れないぞ」
今西が真面目に言うのも、そんな馬鹿なと笑い飛ばせない。確かに灯里との結婚が偽装だと知られたら、瀕死の状態になることぐらいはありえそうだ。それほど、灯里が村で可愛がられてきたということがよくわかった。
その後催された夜通しの宴会でも、みんなから「灯里ちゃんをよろしく頼みます」と頭を下げられ、さすがに安西も胸が痛んだ。
『地域おこしはビジネス』と割り切って仕事をしてきた安西だったが、ここに来て考えが少し変わった気がする。
この村の力になりたい。
灯里のことを我が子のように愛おしむ村人たちの手助けができないだろうか。
自然とそんなことを考えている自分に驚いたが、悪い気はしなかった。偽装結婚の罪滅ぼしではないが、全力でこの村の力になることを決意した。
灯里は安西の両親に会って、どう思っただろうか。
『いきなり連れて行かれたんですからね。旦那様のせいで、心臓が止まりかけましたよっ』
会ったこともないのに、頬を膨らませプリプリと怒る姿が想像される。
安西は頭をガシガシと掻き、灯里がいる東京の方に向かって、すまないと頭を下げておいた。