メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
灯里はお正月を故郷の村で過ごし、四国の町に帰ってきた。手には村名物のマロンブラウニーが入った紙袋を下げている。
灯里の村では、安西が手掛けてくれた『マロンブラウニー』が大当たりし、今では注文を受けてからお客様のもとに届くまで数カ月かかるほどの人気商品になっている。
「面倒な村おこしはしたくない、でも村を活性化させるために、何かせんとあかん。それを、このブラウニーが叶えてくれたんや。安西社長のおかげやな」
祖父は厳つい顔を綻ばせて喜んでいた。
販売当初は村の婦人部でつくっていたブラウニーだが、売れ行きが好調なので、パティシエを雇うまでになっている。ネット販売だけでなく実店舗でも売ってほしいという要望に応えて、最寄り駅に販売店も作った。すると、ケーキを売る人が必要になり、さらに雇用が増加した。それが最終的には若い人たちの移住にも繋がり、まさにいいことづくめだったのだ。
「この前、和菓子屋の『京泉』からサンプルの栗を送ってほしいと連絡が来た。うちの村の栗を使ってみたいそうや。あの『京泉』やぞ!取引が決まったら、村の安定した収入源になる。役場は〝何としてでも契約を〟と大張り切りや」
祖父はお酒を飲みながら上機嫌で浮かれ、灯里も一緒に乾杯して、お正月は大いに盛り上がった。
先だっての温泉旅行の時に、灯里は厳太郎に村の話をした。栗が自慢だと熱弁して笑われたが、今回の件は厳太郎が働きかけてくれたのだろう。
安西と結婚して得たものはここにもあった。元々村のためと思って結婚したわけなのだから、村おこしが成功して本当によかったと思う。
でも、祖父は安西をものすごく気に入っているようなので、離婚すると聞いたら悲しむだろう。今回の帰省も、「安西さんはおらんのか」と残念がっていた。離婚後もよければ村に遊びに行ってやってくださいと、安西にはお願いするつもりだ。
灯里は安西に『会いたい』と伝えてみた。
何度もメールを書き直し、最後は勢いでエイっと送信ボタンを押した。
明後日、三年ぶりに関東に戻る。安西がいる関東だ。
灯里の願いは叶えてもらえるだろうか。祈るような気持ちで、残り二晩になった四国の夜空を仰ぎ見た。