メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

「なんだって?」
今西は幻聴でも聞こえたかと疑った。

「だから、灯里に会ってみようと思う」
幻聴ではなかったらしい。安西は、本当に灯里に会うと言ったのだ。

「もうすぐ離婚だし、最初で最後のご対面ってか?」
「まあ、それもある」

それもある?「も」ってなんだ。他になにかあるのか?

灯里に会うことを今西に告げてスッキリとしたのか、明るい顔で仕事に取り掛かる安西を横目で伺った。

安西とは大学の頃からの付き合いだ。優しい好青年のような見かけに反して、性格は至ってクール、いやハッキリ言うと冷たい。そんな安西は昔からやたらモテた。いわゆる〝ギャップ萌え〟というやつらしい。
交際相手は選り取り見取り。でも真剣交際はお断りで、体だけのつきあいでいいと割り切れる人しか相手にしない。女性関係に限って言えば、かなり最低な男だ。

その安西が突然結婚したい、しかも嫁を募集するというぶっ飛んだことを言い出した。ついにストレスで血迷ったかと思ったが、本当に結婚してしまったのだ。

多くの候補者の中から、吉永灯里を選んだ時は正直「コイツ本当に最低だな」と思った。写真を見ただけでも、灯里は素朴で可愛い子に見える。ちゃんと愛されて幸せになれる子だ。敢えてそんな子を偽装結婚の相手に選ぶなんて鬼畜としか言いようがない。

あの時安西は「地方の町に溶け込めそうだから」などと言っていたと思うが、それだけではなかったらしい。どうやら、本気で灯里のことを気に入っていたのだ。

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