メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~

ソワソワと鏡の中の自分を見る。いつもとなんら変わりないと思うが、少し緊張気味に見えるのは気のせいだろうか。

自宅の一室で、安西はいつもより念入りに身支度を整えていた。

『灯里に会おうと思う』と今西に告げたのは二日前だ。すると、有能過ぎる秘書はすぐさまスケジュール調整をして、『明後日、灯里ちゃんの家にいくぞ』と指示を出してきた。

『えっ!明後日!?』
『時間を空けると尻込みしたくなるぞ』

失礼な。子どもじゃないんだから、行くと決めたら行くに決まってる。
でも、心の準備のためにもう少し時間が欲しい。

安西は返事を渋った。

『行ったことのない土地なんだし、視察も兼ねて行けばいいじゃないか』

今度は諭しにかかる。なんだかんだ言っても、今西は安西の扱いがうまい。なるほどそれもそうかと納得して、こうして二日後には灯里に会いに行くのだから。

お忍びの視察ということなので普段着でいい。濃い茶のハイネックのセーターに、黒のデニム。キルティングのコートを羽織って、もう一度鏡を見る。

髪を手櫛で整えていると、鏡の中の自分と目が合ってハッとした。

いやいや、おかしいだろ。
なぜそんなに見かけを気にする。

自分に呆れ果て、首を振りながら家を出た。

< 60 / 106 >

この作品をシェア

pagetop