メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
車は郊外の道を走り続け、二階建ての小さな一軒家の前で止まった。
安西は車を降りて、まじまじと家を見る。
外側は古いが中は全部リフォーム済みだと聞いて、ここに決めたのだが…
写真で見たよりも、かなり年季が入っているように見える。中は本当にきれいなんだろうか。
写真と実物がこんなにも違うなんて。今までの家も全て写真で決めてきたが、大丈夫だったのか?
庭先にある駐車場には、不二子が停まっている。赤い車があるそこだけは華やいでいるように見えた。
思わずフッと頬がゆるむ。
灯里は不二子のことを友人であるかのように、メールで知らせてきた。
『不二子ちゃんと行ってきました』
『不二子ちゃんは小さいけれど、沢山の荷物を運んでくれます』
安西以外の人が見たら、まさか不二子が車とは思わないだろう。
『お世話になったな』
車体を軽く撫でると、不二子は『どういたしまして』と笑っているように見えた。
安西はぐるっと家の周りを一周し、再び玄関前で考え込んだ。
不二子はいいとして、家が気に入っていなかったとしたらどうする?
今までずっと不満に思っていたとしたら。
安西はにわかに緊張しだした。
「おい、大丈夫か?」
今西が呆れたように声をかけてきた。
「俺も今考えていたところだ。この家、かなり古く見えるが大丈夫なのか?」
「いや、俺はおまえの心配をしてるんだが。あきらかに挙動不審だろ。もしかして緊張してるのか?」
今西と安西は無言で見つめ合う。
「おまえでも緊張することがあるなんてな。でも、ここまで来たら行くしかないんだ。覚悟を決めろ」と今西はインターフォンを鳴らした。
『はーい』
可愛い声が聞こえ、安西の心臓はドキッと跳ね上がった。
『灯里ちゃん?今西です』
『え!今西さん?ちょっとお待ちください』
慌てたような声を最後にインターフォンが切れた。
「おまえ、行くって言ってなかったのか?」
「サプライズの方が盛り上がる」
どんな感動のご対面を期待しているのか、今西は大きくうなずいた。
扉がガチャっと音を立てて、大きく開いた。写真で散々見てきたお団子ヘアーが現れる。
「もう!今西さんっ。連絡くらいしてくださいよ。びっくりしたー」
小柄な体に、涼し気な眼。口は拗ねたように少しとんがっていた。