メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
写真で見続けてきた灯里が、目の前に立っている。
安西の胸には温かいものがこみ上げた。動いている灯里は想像以上に可愛かった。
同時に緊張感が増していく。
非常識な偽装結婚を持ちかけた身だ。「会いたい」と言われて喜んで来たが、離婚の前に積もり積もった文句を言いたいということだったのでは…
「俺が安西だ」と言った瞬間、可愛い灯里の顔が険しく歪んだらどうすればいい?
安西がグルグルと考えを巡らしていると、灯里と目が合った。
「あれ?今日は晴夏さんが一緒じゃないんですね?」
今西は笑って、「ゴメンゴメン」と言った。
「灯里ちゃん、こいつは…」
「ヤマダです」
今西の声に被せるように、安西は言っていた。言ってから心底驚いた。
「ヤマダさん?」
灯里が不思議そうに繰り返す。
「クリエイトウエストのヤマダです。初めまして」
さらに、スラスラと偽の名前で挨拶をする自分に安西は驚愕していた。
「会社の方なんですね!初めまして。どうぞお上がりください。まだ家の中は片付いてないんですが」
灯里は笑いながら、安西たちを家の中に案内した。
続いて中に入ろうとする安西の脇腹を今西が拳で殴り、灯里に聞こえないように小声で怒鳴りつける。
『おまえ何言ってんだよっ!ヤマダって誰だよ!』
『本気で殴るなよ!気づいたらそう名乗ってたんだよっ』
『はー!?』
目を吊り上げて怒る今西に、安西も困惑した顔を向けた。
ヤマダ?
一体どこからその名前が出て来たんだろう。灯里に実際会ってみると、思った以上に焦って訳の分からないことを口走ってしまった。
出会いの場面のシミュレーションはどこへやら。行き当たりばったりといってもこれはひどすぎだ。
「どうかしましたか?」
灯里がなかなか入って来ない安西たちをキョトンとした顔で見ている。
「いえいえ、なんでもありません」
安西は脇腹をさすりながら、家の中に入っていった。