メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
小さなアパートの部屋の中をウロウロと行き来する。
書くことがうまくまとまらないとき、灯里には動きながら考えをまとめる癖があった。
散歩に出てもいいが、外だと視界にいろんなものが入りすぎて、反って混乱してしまう。だから狭いアパートの部屋の中をうろついているのだ。
いま考えているのは、ティーン向け雑誌の付録の紹介文だ。紙媒体の雑誌の売れ行きは落ちており、最近では付録が生命線になっている。いかに付録で購買意識を刺激できるか、『物書き』を生業としている灯里の腕の見せ所だ。
でも、ティーンの女の子たち向けというのが難しい。だから、こうして一時間以上ずっと部屋の中を歩き続ける羽目になっていた。
『ライター』といえばカッコいいが、灯里は雑誌のコラムからスーパーのチラシの特売情報の煽り文句まで、なんでもこなす『何でも屋ライター』だ。不安定な収入だが、大学の先輩が出版社に勤めていて、こうしてちょくちょく仕事を回してくれるのでなんとか生活できている。
今月の付録は、有名化粧品会社とコラボしたリップ。化粧にあまり興味がない灯里には、なかなかの難題だった。
うーん、うーんと考えている時に電話が鳴った。
祖父母の家からだ。祖母からは健康観察も兼ねて、よく電話がかかってくる。話しだすと長いので聞くのが大変だが、これも祖母孝行の一つと思ってつき合っている。
「もしもーし」
「灯里か?元気にしとるか?」
意外なことに祖父だった。祖父の声は、耳がきーんとなるほどデカい。耳をスマホから離して「元気だよー」と答えた。
「ちーと話したいことがあるんやが、今ええか?」
「大丈夫よ」
「灯里ー。じいちゃんを助けてくれ」
突然の泣き言に仰天する。
「ど、どうしたのっ!おばあちゃんに何かあったの?」
スマホにかじりつくように訊ねる。祖父がこんな風に灯里に頼み事をするなんて初めてのことだった。
「いんや、ばあさんは元気だ」
「じゃあ何っ?」
「村のことやがな」
「村?」