メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
祖父は関西にある、とある村の村長をしている。人口五千人ほどの小さな村だが、みんなが助け合って暮らしているいい所だ。
灯里の両親は、灯里が小学生の時に事故で亡くなった。両親の死後は祖父母に引き取られたので、灯里も高校に上がるまではその村で暮らしていた。子どもが少ない村では、村全体で子どもを育てる。灯里もそんな風に大事に育ててもらった。
今は東京(厳密に言うと限りなく埼玉に近い東京)に住んでいるので、なかなか帰る機会がないが、帰ったときには村の人たちが温かく迎えてくれる。両親のいない灯里にとって、村人みんなが家族のようなものだった。
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「この前、市町村長会義があって、人口が減少している所は対策を取るようにと県から指示が出たんや。県が問題視してる市町村の中に、うちの村が三番目に入っとった。でも、わしらはこのままでええ。そりゃ若い人が移住してくれたり、観光客が増えたら助かるが、めんどうなことはしたくない」
「はー」
村長自ら何とも後ろ向きな発言だ。
「そこで、対策を取ってるように見せようということになった。地方創生のコンサルティングとやらで有名な『クリエイトウエスト』って会社知ってるか?」
「知らない。地方創生っていう言葉は知ってるけど…」
「その『クリエイトウエスト』はいい会社で、相談するのに順番待ちが出てるほどらしい。じゃが、今はキャンペーンをやっとって、社長さんの嫁を募集してる。村や町の代表が嫁さん候補の写真を張り付けて応募するわけや。それで嫁さんに当選したら、その地域は優先的にコンサルティングをしてもらえる」
「…なにそれ」
そんなふざけた話聞いたことがない。
嫁を募集?その社長、どうかしてるんじゃないの。
そう言いかけたがグッと堪える。祖父の話に口を挟むと、話の筋がわからなくなることが多々あるのだ。
「でもな。その社長さん、かっこよくてものすごく人気なんやて。だから当選する可能性はまずない。でも、応募したという事実が大事なんや。だから、うちの村も応募することにした」
きっぱりと祖父は言い切った。
「実はもう応募したんや。昨日が締め切りで、応募しようと決めてから時間がなかったんでな。それで灯里の写真を張り付けて出したから、いちおう言っとこうと思って」
とんでもないことを祖父はしれーっと報告した。