メール婚~拝啓旦那様 私は今日も元気です~
家財道具や生活費のために渡していたキャッシュカード、その他安西が渡したものは全て家に残されていた。灯里が大切にしていた不二子はピカピカに磨かれて、新車のような状態だったらしい。銀行口座の預金はほとんど手つかずで、一体どうやって暮らしていたのかと不思議に思うほどだった。
今西と晴夏は灯里の行方を必死で探してくれた。灯里の祖父母が住む村、今まで灯里が移り住んだ土地、全部あたってみたが灯里を見つけることはできなかった。
安西の意識がしっかりと戻り、灯里のことを今西に聞いた時には、出来ることは全てしてくれた後だったのだ。
今西からは、安西の意識が戻る少し前に亜里沙が病院に来たと聞いた。亜里沙は安西の婚約者だと名乗り、その亜里沙と灯里が会ったそうだ。
灯里が突然いなくなったのは、安西が名前を偽っていたことに加えて、亜里沙のこともあったのだろう。でも、亜里沙を責めることはできない。
そう、全ては安西のせいだ。
人に会えるまでに回復したところで、亜里沙には病院に来てもらった。自分が既婚者であることを話し、付き合っていた頃のいい加減な態度を詫びた。会社を離れていくだろうと覚悟していたのだが、「結婚してたのならそう言いなさいよ。私、既婚者には手を出さない主義なの。仕事はもちろん続けるわよ。この仕事好きだもの」と言われて、拍子抜けした。
安西は、亜里沙のことを恋愛のいざこざで仕事を辞める人だと見くびっていたのだ。
灯里が残していった離婚届は提出していない。何としてでも、もう一度灯里に会いたい。会って話がしたい。生死をさまよって、これからの人生は灯里と共に歩みたいと強く思った。
今は、灯里が住んでいた土地を少しずつ巡っている。不二子と一緒に、何か手がかりはないかと思って…
タブレットに映る灯里の写真に問いかける。
「どこにいるんだ?」
心なしか、灯里は寂しく微笑んでいるように見えた。