追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
途端にショックに固まるハンスを、シュナイザーとベルナールが笑う。

「モニカひどいよ。なんで俺だけ覚えてないの? スーくんと呼んでいたじゃないか」

「ハンスが最初に修練所を出たから仕方ない。あの時モニカはまだ六歳だ」

ベルナールが慰めるようにハンスの肩を叩き、補足する。

それによるとハンスも精霊が離れたため亡くなったとされたが、実際はバーヘリダムの金持ちに売られ教会の資金源とされたそうだ。

ハンスの場合本当に精霊が離れてしまったが、それは彼がロストブを出て二年後のことであった。

「そうだったの。ザッくんは自分で出て行ったのよね?」

「俺たちはガキじゃない。その変な呼び方はやめろ」

あだ名をつけるから名前を聞いても思い出せないんだとも文句を言われた。

シュナイザーの眉間に皺が刻まれたが、モニカはもう怖いと思わない。

平気な顔で「陛下」と呼び直し、親しみが薄れた気がして口を尖らせた。

「不満そうだな」

額を指で弾かれてモニカがリスのように頬を膨らませたら、シュナイザーがクスリと笑う。

「仕方ないだろ。皇帝の威厳を保つためだ。隙を見せれば足元をすくわれる」

「うん。あ、はい」

「ただし、他の者に見られていない時はシュナイザーと呼んでいい」

パッと顔を輝かせたモニカが早速「シュナイザー」と呼びかけると、かつてと変わらない翡翠色の瞳が三日月形に細められた。

< 144 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop