追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
「ピンクの花柄はモニカが好きそうだ」

従僕が意表を突かれたようにシュナイザーと目を合わせ、すぐに手元に視線を下げる。

皇帝をじっと見つめるなど不遜であるからだ。

普段は余計なことを言わない従僕なのに、「かしこまりました」と返事をしてから「お嬢様はきっとお喜びになると思います」と付け足した。

その口元は嬉しそうに弧を描いていた。

「用意ができたら下がっていい。一時間後に片づけに来い」

ポットに茶葉を入れ、湯を準備してから従僕は退室し、入れ替わりのようにこの部屋の廊下側のドアがノックされた。

(モニカが来た。約束の時間より早いな。待ちきれなかったのか?)

口の端を上げたシュナイザーが立ち上がろうとしたら、その前に勝手にドアが開けられて入ってきたのはニヤニヤしたベルナールであった。

たちまちシュナイザーの眉間に皺が寄る。

「俺の私室にお前は入るなと言っただろ。俺たちがただならぬ関係にあると噂されたのを忘れたのか?」

それは即位して間もない頃のことで、執務室だけではなく私室でも夜通し新体制づくりの相談をふたりでしていたら、恋仲なのではと囁かれたのだ。

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