追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
「どれ、うどんを作ろうかの。お前さんが忙しいことくらいわかっておる。玉座にあぐらをかいて暇しているような男じゃ、一国を治められんじゃろう」

「玉座……」

そう呟いたのはドニで、直後に片足を引きのけぞるほど盛大に驚いた。

「こ、皇帝陛下!」

シュナイザーは労を惜しまず視察に赴くので、ドニのような庶民であってもその顔を記憶している者もいる。

ただし今のような平民服で現れたら、まさか皇帝だとは思い至らないようであるが。

「忍びで来ているからかしこまらなくていいぞ」

そうは言っても、腕組みをして口の端をつり上げ偉そうな態度に見えた。

モニカは困り顔でシュナイザーの腕を掴む。

「もっと優しい顔して。ドニが怖がっているじゃない。だから私の護衛はいつものように兵士の方たちでいいと言ったのに」

忙しいはずのシュナイザーが、今日は護衛に自分がつくと言ってきかなかったのだ。

ドニを気遣ったモニカに、シュナイザーがあからさまに不機嫌顔になる。

「お前がそんなんだから、釘を刺すために俺が来たんだろ」

「どういう意味?」

「この男に、気があると勘違いされる態度を取るなと言っている」
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