追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
「なりそこないのままでは困るんだが」

シュナイザーのボソリとした呟きは、誰の耳にも届かなかった。

「ほれ、うどんができたぞ。腹ぺこ小僧、そこに座って食え」

バンジャマンが出汁の香る器を運んでくると、ドニがまたしても戸惑う。

「バンジャマンさんは皇帝陛下に対して、どうしてそんな口の利き方ができるの?」

しかしながら一筋縄ではいかぬこの老爺は、ホッホと笑って受け流しただけであった。


入浴を済ませたモニカは寝間着の上にアンゴラ毛のガウンを羽織り、自室のソファに座っている。

テーブル上にはビロード生地を張った丸い箱があり、中にはシルクの白布に大切に守られるようにして銀のティアラが入っていた。

バーヘリダムいちのジュエリー職人が三か月かけて作り上げたそれは、三週間後に迫る婚姻の儀でモニカが戴冠する。

ダイヤとサファイヤがふんだんにあしらわれ、その豪華な輝きにモニカはうっとりとため息をついた。

そっと箱から出して頭にのせる。

「どうかしら?」

尋ねた相手はもちろんナターシャだ。

「よくお似合いです」

< 191 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop