追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
『それは……してないの』
『なぜやらない』
責めるような口調ではなく、むしろ優しかったが、それまで婚姻の儀の話題で楽しかった気分が急降下した。
(精霊の名を聞くことにどんな意味があるの? もしかして……)
モニカはまだ暖かかった頃にバンジャマンから言われたことを思い出した。
『お嬢さんは聖女のなりそこないだと言っておったな。それも違う。まだ聖女になっていないだけじゃ。正しい導きを受ければ覚醒できるじゃろう』
そう言われる前に精霊の声が聞こえたかと問われもしたので、精霊の名を聞くことが覚醒の条件なのではないかと考えた。
(でも、そうしたらシュナイザーは……)
精霊の名を聞けと言ったのは彼である。
まるで聖女に覚醒させたがっているようで、モニカは不安になる。
(妻にしようとしている私に、聖女になってほしいと思うなんて変よ。来年、大災厄が起きたら、聖女はロストブを守って死ななければならないのに。シュナイザーは私のことを本当に愛しているの?)
「モニカ様?」
ナターシャが後ろに立ったので、ハッとしたモニカは笑みを作って振り向いた。