追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
「最近、精霊と話すのをさぼっていたの。陛下に叱られそうね」

おどけた調子で首をすくめ、摘まんだ組紐を揺らして見せる。

するとしばらく聞いていなかった精霊の声が頭に響いた。

『モニカ……己の使命を知り、我の名を……』

「いやっ! 私に話しかけないで。聖女になりたくないもの。名前なんか知りたくないわ!」

思わず耳を塞いだら、持っていたガラス玉を落としてしまった。

中の水が漏れていないので割れてはいないようだが、ホッとするより涙が溢れた。

マリンブルーの瞳に波が満ちるのを見たナターシャが、驚き慌てている。

「どうなさったんですか? どこかお加減が悪いんですか?」

ぼやけた視界に心配顔のナターシャを映し、モニカは首を横に振った。

「違うの。少し不安になっただけなの」

無理して笑おうとする姿が余計に痛々しく見えてしまったのか、ナターシャの眉が寄った。

「どのような不安が?」

「私、陛下に本当に愛されているのかなって……。これがマリッジブルーというものね。幸せなのに不安に思うなんておかしいわ。ごめんなさい、もう泣いたりしない」

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