追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
「いいえ、どうぞお好きにお呼びくださいませ」
「よかった」
モニカはナターシャの手を取ると、「仲良くしてね」と微笑んだ。
この短いやり取りでモニカの人柄が伝わったようである。
ナターシャが緊張を解いたような笑みを返してくれた。
「ロストブのお嬢様は随分と気さくな方なんですね」
「だって平民ですもの。なっちゃんは貴族の娘なんでしょう? 私のお世話をしてもらうわけにいかないわ」
ロストブでは貴族の屋敷に住んでいたけれど、メイドたちに身の回りの世話をしてもらわずなんでも自分でやっていた。
ただ水の精霊憑きというだけで貴族令嬢ではないのだからと遠慮していたのだ。
(なっちゃんには世話をやかれるより友達になってほしい)
そのような気持ちで親しみのある笑みを向けたけれど、彼女の丁寧な口調は崩れない。
「平民だなんてご冗談を。ロストブの王弟殿下のご息女と、皇帝陛下より伺っております」
「えっ」
モニカは目を瞬かせる。
(貴族のふりをしろってことかしら。たしかに皇帝陛下ともあろう方が平民の娘を拾って城に置くのはおかしいわよね。彼の威厳にかかわるのかも)