追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
『思わないわよ。精霊が憑いてくれてよかったわ。だってほら、こうしてお水が飲める』

ローラは転がっていた欠けたカップを拾い、粗末な服で汚れを拭くと魔力で水を溜めた。
にっこりと笑ってクリスにカップを差し出す。

それを飲んだら姉の清らかで優しい味がして、クリスの涙は引っ込んだ。

『泣きやんだわね。よかった。今日はもっとあなたを笑顔にしてあげる』

そう言ったローラは納屋の木箱に隠していたものを取り出し弟に渡した。

『猫?』

粘土の猫の置物は不格好で不思議な雰囲気があった。

『招き猫よ。私が作ったの。クリス、お誕生日おめでとう』

『僕にくれるの? ありがとう!』

クリスが誕生日プレゼントをもらったのはこれが初めてだ。

たとえ不格好な猫の置物でも大喜びした。

両親に疎まれても村人に石を投げられても、ローラがいるから幸せだと思えた――。

シュナイザーはバンジャマンの視線を追って棚の飾り物を見た。

「招き猫とはあれのことか?」

< 245 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop