追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
「私はモニカ様のご意志を尊重します」

そう言ってくれてもナターシャに笑みはなく、モニカの眉尻が下がる。

(なっちゃんにも祝福してもらいたいのに困ったわ……)

モニカの唇にはけが滑り赤く艶めく。

綺麗に塗り直してくれたナターシャが化粧道具を置くと真顔で問いかけた。

「お幸せですか?」

「ええ。とても幸せよ」

モニカが微笑んで即答したら、ナターシャが息をついてからやっと笑顔を見せてくれた。

「そのお言葉は心からのようですね。でしたら私も幸せです。大災厄なんて起こりませんよ。モニカ様は何十年先もずっと笑顔でいられるはずです」

「なっちゃん……。ありがとう、大好きよ」

モニカが聖女の務めを果たして死ぬことをナターシャは受け止められないようだ。

『何十年先も』と言われてモニカは胸に痛みを覚えだが、それを隠すために立ち上がってナターシャを抱きしめた。


それから一時間ほどが経ち、婚姻の儀がつつがなく進行中である。

閉じられた両開きの重厚なドアから奥の祭壇に向けて赤絨毯が長く伸びている。

列席の貴族は三百人ほどで、広々とした祈りの場が今は狭く感じた。

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