追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
身分が下の者がするように、モニカの手の甲に口づけたから列席者たちがどよめく。

「へ、陛下。私にそんなことしては……」

皇帝の権威が揺らぐのを気にしてモニカはおろおろするが、シュナイザーは少しも動じず真摯な眼差しを向けてきた。

「俺がこうしたいと思ったからだ。周囲は気にするな」

モニカを交渉の駒にしたけれど軽んじてはいないと伝えたかったのかもしれない。

(苦渋の決断だったのよね。わかっているわ。私は愛されている。そう信じないと)

モニカは口づけされた手を握り、胸の痛みと闘った。

「世界をつかさどる精霊たちと聖女アグニスの名において、シュナイザー・クリフト・ベーベルシュタム皇帝陛下とモニカ・メルネスを夫婦と認める。賛同する者は拍手をもって応えよ」

大きな拍手が沸き、大聖堂の鐘が鳴る。

両開きのドアが全開にされ、清らかな雪景色が見えた。

モニカはシュナイザーに腕を絡ませ、貴族の子供たちが降らすフラワーシャワーを浴びながら赤絨毯の上を外に向けて進む。

ふと視線に気づいて横を見るとシュナイザーが優しげに微笑みかけてくれた。

(ほらね、私は幸せなのよ。なんの憂いもないわ)
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