追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
「鶴亀亭のお饅頭よ。中にあんこという甘い豆のペーストが入っているの。美味しいわよ。食べてみて」

「はい。ではひとつ……」

饅頭を口にしたナターシャは「あら美味しい」と口に手をあてた。

眼鏡の奥の瞳が三日月形に細められる。

「私、甘いものに目がないんです」

「わかるわ。私もよ」

ロストブは耕作に適した土地が少なく、果物や砂糖は高値で売られていた。

修練所の食事でデザートが出されるのは慶事の時のみで年に数回だ。

特別扱いのモニカだけは週に一度、果物や焼き菓子が出されたので、年下の子供たちを可哀想に思いこっそり分けてあげていた。

修練所を卒業後の貴族邸でも食事は質素で、日常的に甘いものが出されることはなかった。

そんな食生活が当たり前だったモニカなので、バーヘリダム城に来て驚いた。

今日の昼食はパンとスープだけでなく鶏肉のソテーとキッシュまであり、デザートは苺とオレンジのカットフルーツに、イチジクのタルトという贅沢さ。

思わずモニカは給仕をしてくれたメイドを呼び止めてこう聞いた。

『このデザート、あなたも食べない?』

自分だけ贅沢をするのに気が引けたためである。
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