追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
(リス……。可愛いから嫌な気がしないわね)

機嫌を直した直後にモニカは目を瞬かせた。

いつだったか誰かと同じ会話をしたような気がしたからだ。

幼い頃まで記憶を遡ろうとしたけれど、大きな汽笛が鳴り響いて邪魔をされる。

海の方を見れば、入港したばかりの貿易船が動きだしていた。

シュナイザーがモニカの隣に並んだ。

「あの船は積み荷と乗組員を入れ替えたらすぐに出港する。東洋の港とここを行ったり来たりの終わらない旅だな」

「忙しい船ですね。もし船に感情があったら、疲れたから嫌だと言いそうですね」

「言わないだろ。それがあの船の使命だ。俺にも使命はある。嫌だと言ってられない」

落ち着いた声色だが強い意志が感じられ、モニカは隣に振り向いた。

けれども視線は合わず、翡翠色の瞳は静かに海を見つめるのみ。

(陛下の使命ってなにかしら)

皇帝なのだからこの国を守って?栄させることかと予想して聞いてみたが、「いや」と否定された。

待っていても正解を教えはくれず、逆に問い返される。

「モニカ、お前の使命はなんだ?」

「え?」

(突然そんなことを聞かれてもわからないわ)

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