追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
ナターシャが驚いたようにモニカを見る。

「なっちゃん、どうしたの? 拭いたのによだれのあとがまだ残ってる?」

「いえ、大災厄後に聖女が亡くなると知らなかったので……」

「聖女伝、読んでないの?」

「はい。読んだことはありません」

ロストブでは精霊憑きだけでなく、学校に通う子供は全員読まされている。

毎週日曜の教会の礼拝でも初代聖女アグニスの話を聞かされるので、国民全員に浸透している話だと思っていいだろう。

バーヘリダムもセントアグニス教が主たる宗教であるそうだが、高い山脈に守られ大災厄に巻き込まれないとされているためか信仰心は薄いようだ。

モニカが精霊憑きだと知った時に、ナターシャが『本当にいるんですね。おとぎ話かと思っていました』と言ったほどである。

モニカはナターシャに初代聖女アグニスの話をしようとしたが、思い直してやめた。

聖女のなりそこないの自分が偉そうに講釈する立場にないと思ったからだ。

ベッドから下りたモニカはキャビネットの扉を開けて、今日の服を選ぶ。

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