追放された水の聖女は隣国で真の力に目覚める~世界を救えるのは正真正銘私だけです~
ダリアが上品な紫色のデイドレスを揺らし、公爵の隣の席から立ち上がった。

シュナイザーに歩み寄り二歩の距離を置いて止まると、スカートを摘まんで腰を落とす。

「陛下、お久しぶりにございます。父のことはお許しくださいませ。陛下にお会いしたくて夢にまで見るほどのわたくしを心配しての親心なのです」

恥ずかしそうにフフと笑うダリアは可愛らしいが、それは見せかけだ。

(この娘は妃になりたいだけだ。皇帝が俺じゃなくてもいいんだろうな)

頬を染めず、緊張もせずにシュナイザーの前に立つ彼女からは、女性としての最高の地位を得たいという目論見しか感じなかった。

「そうか」

淡白にひと言しか返さなければ、ダリアの眉が微かに寄った。

けれどもそれは一瞬だけで、すぐに笑みを作り直した彼女が手の甲でスカートを撫でた。

「このドレスは最近仕立てたものなんですの。陛下が紫色がお好きだと仰ってから、わたくしの衣裳部屋は紫のドレスで溢れそうですわ」

そんなことを言っただろうかとシュナイザーは記憶を辿る。

(昨年末の祝賀行事後の会食で言った気もするな。真に受けていたのか)

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