契約結婚のススメ
 その間女性店員は頬を染めて楽しそうに答えている。彼を見る瞳は輝いていて、とてもうれしそう。そりゃそうだよね、彼はとってもイケメンだもの。

 それにしても、なぜだろう?

 彼は意外にもイタリア語が堪能だ。学校に通っているとはいっても片言しか話せない私とは雲泥の差である。

 女の子のスリに狙われたりするから、てっきり慣れない旅行者だと思ったのに、どうやら違うらしい。

 女性店員が行ってしまうと、彼はにっこりと私に微笑みかける。

「日本語のメニューはないそうだ。代わりに英語のメニューを持ってきてくれる」

「ありがとうございます。でもどうして私がイタリア語が話せないとわかったんですか?」
 現地の人っぽく、澄ましていたつもりなのに。

「メニューを睨む君のまわりにクエスチョンマークが飛び散っていたから」

「ええ?」
 彼は指先を上げ、クエスチョンマークを描いて首を傾げる。

 プッ。思わず吹き出して、あははと笑い合った。

「英語のメニューで大丈夫?」
「はい。英語なら一応」

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