契約結婚のススメ
 祖父は陶芸家であり、店の一角で陶芸を販売するカフェを営んでいる。店の名は『陶だまり』。名前の意味は、陶芸家のたまり場だ。

「おじいちゃん、おはよう」

「おはよう」

 陶だまりを開店したのは祖母だったが五年前に亡くなり、祖父が引き継いだ。

 陶芸家としての祖父は、数々の賞を取っているし、銀座の百貨店で個展を開催するくらいの実力がある。

 でも祖母が亡くなってからは作陶の方針を変えたようだ。

 商業陶芸家は卒業だと言いだし、大掛かりな展示会はしなくなった。今も陶芸は細々と続けているが、本人曰く作りたいものだけを作っているのだそう。

 店はそれほど広くはない。

 カウンターと、四人掛けテーブル席が奥にひとつ、二人掛けが四つ。

 決まった店員はおらず、時々若手陶芸家が店番のバイトをしていたりするが、基本的には祖父ひとりだ。

「おじいちゃん、どう? 腱鞘炎は」

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