契約結婚のススメ
「いらないよ。私はお金持ちのマダムなんだから」

 なにしろドーンとゼロが並ぶ大金が通帳に振り込まれている。カードも使い放題だから、お金が全く減らない。

「ほぉ、で、マダムはついて行かなくていいのか?」

「いいの。今回は」

 おじいちゃんを理由にしてるんだよ、とはさすがに言えない。「ま、気にしないで」と笑ってごまかした。

 先週、一貴さんが仕事でいない日中、義母が訪ねてきた。

『陽菜、あなた行かないんですって?』

 一貴さんのお母さまから聞いたらしい。

『どうして一貴さんと一緒に行かないの? 行きなさい。妻として彼を支えなきゃ』

 父が亡くなり二カ月経った今、義母は一貴さんと一緒にロサンゼルスに行くべきだと言う。

『おかあさん。私、蒲田のおじいちゃんが心配なの』

 祖父の話を持ち出されると義母はなにも言えなくなる。

 私が『元気なうちにおじいちゃん孝行をしたいの』と言うと、少し困ったように表情を曇らせた義母は、案の定『そう』と口ごもりため息をついた。

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