契約結婚のススメ
 それきり強くは進めてこなかった母の伏せた目もとを思い出し、私はガラス窓を磨きながら苦く笑う。

 あんなふうに戸惑った義母の顔を見たのは、初めてかもしれない。

 義母には私の実母側の親戚に遠慮がある。義母が困るとわかっていて祖父を持ち出す私って、随分性格が悪くなったな……。

 でも、どうして心配そうにするんだろう。

 私よりも血縁者の柳美加のほうがかわいいんでしょう? 私が一貴さんに捨てられて、お父さんが大切にしていた枇杷亭を柳美加に乗っ取られてもいいんでしょう?

 私がロサンゼルスに行って一貴さんと絆を深めたところで、離婚で傷つくのは私だけなのに。

 そんなに私が憎いのかな。

 なんて、本当に私どんどん歪んでいくね。

 もし、私があの時、クルーザーでの立ち話を聞いていなければ違っただろう。

 実家にもまめに帰っただろうし、ハウスキーパーさんに家事を任せっきりにしたりしなかった。

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