契約結婚のススメ
 言われなくても一貴さんに同行したはずで、少なくとも命に係わるわけじゃない祖父の腱鞘炎を理由に、断ったりはしなかった。

 祖父は健康で若々しく、資産家とは言えないまでも生活には困っていない。祖父を慕う若手陶芸家も沢山いるのだから、私が店を手伝わなくてもやっていける。

 でも、私は知ってしまった。

 もう義母の言う通りにはできない。

 私が東京に残った理由は、ひとつ。

 心をリセットして、私自身の明るい未来を見つめ直すため。



***



 空港に近づくにつれ飛行機の音が大きくなる。

 社有車の後部座席から見上げる空は快晴、風も強くないし空の旅日和だ。

 前回は悪天候でなかなか離陸はしないし飛べば揺れるしでひどかった。それを思えば気が楽なはずなのに、やけに気分が重い。

 明日からひと月、また日本を離れる。

 一年の半分以上は海外を転々としなければならないのは我が家の宿命のようなものだ。子どもの頃からずっとこういう生活を続けているせいか苦ではないが――。

「はぁ」
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