契約結婚のススメ
「四十九日が明けたばかりですし、まだ気持ちが落ち着かないのでは」

 そうだろうな。俺だってわかっている。

 陽菜の父親はいっとき仕事に復帰できるくらい元気になった。もしかしたら奇跡の復活を遂げると期待したが、そうはならなかった。

 本人はわかっていたようだ。倒れる少し前に俺に会いに来た。

『一貴くん。世間知らずな娘だが、どうかよろしく頼む』

『安心してください。陽菜さんを大切にします。陽菜のためにも、どうか長生きしてください』

 結婚してからも、陽菜は父親を最優先してきた。

 容態が急変してからの一週間は、ずっと帰ってこなかった。

 それは俺も納得している。彼女が病床の父に付きっきりだった時もむしろ『家事なんかしなくていいから、思う存分つき添ってあげたらいい』と応援してきた。陽菜が実家に帰っている間は、可能な限り俺も鎌倉に行って共につき添った。

 今だって、こんな時だからこそ、近くで見守りたい。

 部屋にひとりでいるかと思うと心配だから。

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