契約結婚のススメ
 その気持ちは陽菜に届かず、宙ぶらりんのような気がしてならない。

「パーティーの同伴はこれまで通り、現地の女性スタッフが対応するよう連絡しておきます。いつものようにナオミでよろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」

 ヨーロッパでもアメリカでも、取引先と交流を深めるためにパーティーは欠かせない。

「そういや、うちの妻はもしかしてパーティーが負担なのか?」

 何度かパーティーに陽菜を連れて行っている。特に嫌な顔はしないが。

「いえ、奥様は社交的ですし、無理なく楽しんでいらっしゃると思いますよ?」

「だよな」

 となると、なんだ。

「奥様は英語が堪能でしたよね」

「そうだが?」

「喪が明ければきっと海外でも活躍してくださいますよ」

 喪が明けるのは一年か? あと十カ月。結構長いな。

 でも仕方がないか。陽菜の血縁は父親と実母方の祖父だけだった。父亡き後、例え命に関わらなくても祖父を心配するのは当然だ。

 だが、それはそれとして。

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