契約結婚のススメ
 俺とひと月も離れるのに、まったく寂しそうな様子も見せないのはなぜなんだ?

『いってらっしゃい』

 にっこり笑顔のまま玄関先で手を振った陽菜は、空港まで見送りに来るとも言わなかった。

「奥様は、もしかして……」

 ん?

「いえ、なんでもありません」と言ったきり森下は口ごもる。

 おいおい、中途半端でやめるのか。

「最後まで言えよ。気になるだろ」

「はぁ。なにか目標があるんでしょうか。専務の妻としてではなく、それ以外の目標が」

「目標? なぜそう思うんだ」

 森下は幾度となく陽菜と顔を合わせている。

 夫婦同伴で行ったパーティーのほか、椿山の義父の葬儀や、我が家に海外の要人を招いた時など、陽菜を支えてもらっているから話す機会はあるのだろう。

「なんというか、勘です」

 お前なぁ、これからひと月という長期出張の前にわざわざ疑惑の塊を投げておいて勘だと?

 とはいえそれだけの確信があるんだろう。

< 110 / 203 >

この作品をシェア

pagetop