契約結婚のススメ
「その勘の真相。俺が出張してる間にはっきりさせておけよ。業務命令だ」

 森下は「はい」と、軽くうなずく。

 見逃せないなにかを感じているんだろう。森下は観察力が鋭い。意味もなく不安をあおるようなまねはしない優秀な部下だ。

 それに、俺も感じている。

 陽菜は俺に心を開ききっていない。頑なになにかを抑え込もうとしている。

 それがなになのか。焦らずに待とうと思ってはいるが……。

 結婚前は違った。

 あまり頻繁には会えなかったが、会えばいつも無垢な笑顔で笑っていた。あの時期は父親の具合が良かったせいもあると思うがそれだけじゃない。

 俺の仕事にも興味を持って聞いて来たりした。

『私はなにを覚えればいい? 英語しかちゃんと話せないから、もっと勉強しなきゃ』

 自分からそう言って、語学教室を調べたりしていたはずだ。

 だが結局行っていない。行ける状態じゃなかったから仕方がないが。

 時折考えても無駄な疑念が脳裏に浮かぶ。

 陽菜にとって俺はなんなんだ?

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