契約結婚のススメ
『父が元気なうちに、花嫁姿を見せたいんです』

 彼女が二十三歳という若さで俺との結婚した理由はほかでもない、病床の父を安心させたかったからだ。

 その目的のために俺を利用しただけなのか。


「なあ森下、女性の目から、俺はどんなふうに見える?」

「それは、どんな女も落とせるとかいう自慢ですか」

 森下は目を細めて睨む。

「なに言ってるんだ。ったく、お前も捻くれ者だな。印象だよ、印象」

「女性からみた専務の印象?」

「やっぱり怖いのか? 社内や仕事関係の女性は、俺と目が合うとやけに緊張するようだが」

 怯えているともいうが。

「それはそうでしょう。専務とは上下関係がありますし」

 なるほど、それもそうだ。

 だけど夫婦に上下関係はないよな。

「あ。もしかして奥様に避けられているとか?」

「避けられてはいない」

「でも、心を開いてもらえない?」

 まあな。それな。

「たとえばだ。心優しいプロのテニススプレイヤーとド素人がテニスをしたらどうなると思う?」

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