契約結婚のススメ
【柳美加、所属事務所を退所か】
なるほどね、と思いながらスマートホンで読んでいた記事を閉じた。
その時が着実に近づいている。
一貴さんはまだなにも言わないけれども離婚を切り出してくるのは時間の問題だろう。ひと月の自由時間ができたし、さあて私も準備を整えなくちゃ。
地下鉄のベルを聞きながら、気合を入れて電車を下りる。
枇杷亭がどうなろうと私にはもう関係ない。
気にしないと決めたんだ。
そもそも父は私に枇杷亭の後を継がせるつもりはなかった。
跡継ぎには叔父がいるし『料亭の経営はとても大変だから、陽菜に苦労はさせたくない』と言って、父は私を関わらせようとしなかった。
とりもなおさずそれは、枇杷亭がどうなろうと気にするな、という父の声である。
客観的に見れば、柳美加が女将になるのは、いい話だろう。
経験のない彼女がどこまでできるかは別として、彼女の知名度と南城一貴という強力な後ろ盾があれば、枇杷亭はもう心配ない。