契約結婚のススメ
 ただ静かに枇杷亭の未来を受け入れていこうと思う。枇杷亭のために私ができることは、なにもないのだから。

 私と離婚するのが先か、柳美加が枇杷亭の女将になるのが先か。あとは順番だけ。考えなくちゃいけないのは、自分の今後の身の振り方だ。

 一貴さんと離婚して、その先をどう生きていくか。

 私は一貴さんを恨んだりしない。

 だって私から頼んで結婚してもらったんだもの。

 彼は枇杷亭を助けてくれて、お陰で父は穏やかな最期を迎えることができた。恨むどころか感謝を忘れないようにしなきゃいけない。


 てくてく歩いて祖父の店に着いた。

 店に入る前にガラスの汚れをチェックする。天気もよかったせいか汚れはない。

「おじいちゃん、おはよう」

「おはよう」

 見慣れない顔の男性がいた。

「おはようございます」
 年齢は三十代前半? 中肉中背でごく普通の優しそうな男性。

 あっ、いやいや違う、十分イケメンだ。一貴さんを見慣れてきたせいか、私ったら基準がわからなくなってきている。

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