契約結婚のススメ
「弟子の徹くんだ。いい男だろう? 今日からしばらく手伝ってもらう」

「陽菜です。よろしくお願いします」

 祖父は作陶の時間がほしくなると弟子に店番を任せる。そのうちのひとりなんだろう。

 店番はどんなふうなのか、ひと通り伝えて、彼は帰った。

「真面目そうな人だね。感じもいいし」

 祖父は目を細めうれしそうに相好を崩す。彼を気に入っているようだ。

「ああ、一番弟子だからな。いずれこの店をあいつに託そうと思ってな」

 えっ?

 ズキッと心が痛む。

 この店の二階部分は住居になっている。

 築年数は相当古いし六畳一間という狭い空間だが、キッチンとユニットバスもついているのでなにも困らない。

 ここで作陶はできないから、祖父はこの店の近くに居を構えているので、基本的に空いているのだ。

 私はひそかに狙っていたのに。店を引き継ぎこの二階で暮らすのも悪くないと。

 そんな甘い考えを、祖父は知る由もない。

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