契約結婚のススメ
「ここは食うに困った若手陶芸家の拠り所でもあるから、潰すわけにはいけないしな」

「そっか」

「お前は立派なところに嫁に行ったから、もう心配ないし」

 違うよ。もうすぐ離婚するんだよ、なんて言えない。
 言っちゃいけないよね。

「おじいちゃん。それはいつ? もしかして腱鞘炎がそんなにひどいの?」

「まだまだずっと先だ。俺が元気なうちはがんばるさ」

「よかった。じゃあ何十年も先だね」

「あはは。仙人じゃあるまいし」

 笑い合いながら、少しホッとした。

 祖父は元気だ。この先何十年は無理でも十年はがんばってくれるだろう。私が離婚したら考えを変えてくれるかもしれないけど、それを期待するのは身勝手だよね。

 自分だけの力でなんとかしないと。

 離婚したら働こう。どこかアパートを借りて。実家には義母がいるからと考えて、ズンッと胸の奥が重くなった。

 結婚披露パーティーで義母と美加の会話を聞いてから、義母とは心の距離ができてしまった。

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