契約結婚のススメ
 以前のように心からの笑顔を向けられないし、できるならもう会いたくないとさえ思ってしまう。

 愛されていると信じていたのに。

 血の繋がりなんてなくても、二十年近く一緒に暮らした月日が固い絆になっていると思っていたのに。

 結局、義母にとって私はなんだったのかな。

 もうすぐ帰らなくちゃいけない。

 父の月命日だから。

 あれこれ考えながら厨房で準備をしていると、チリンとドアベル鳴った。

「いらっしゃいませ」

「モーニングひとつね」

「はーい」

 お客様の登場に気を引き締める。

 先はいずれにしろ、陶だまりがあってよかった。家にいたら悶々としてしまうから。



 そして迎えた父の月命日。

 なんとなく緊張して玄関の前に立った。ひと月ぶりの里帰りだ。

 意を決して合鍵を使い、ドアを開ける。

「ただいま」

 返事はない。

 どうやら義母は不在らしい。人の気配もなく邸は静まり返っている。

 そういえばここはどうなるのだろう。

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