契約結婚のススメ

　屋敷は塀を挟んで料亭と隣り合わせになっていて、塀には木戸塀があり行き来できる。

　ここは料亭と同じように歴史のある洋館で、代々枇杷亭の当主がここに住む。父が社長だったからここに住んでいたけれど、父が亡くなった今、多分この邸に叔父一家が住むようになるはずだ。

　いつかその話になるだろうと覚悟はしていたけれど、もしかしたらその話が進んでいて、義母はもうここを出て行った？

　まさか。もういないわけじゃないよね？

　ドキドキしながら廊下を進み、リビングに入るとテーブルの上には花が飾ってあった。レースのカーテンから日差しが差し込み、昔と変わらない暖かい空間にグッと熱いものが込み上げてくる。

　父がいて義母がいて、幸せだった日々。

　外を見ると、芝生が敷き詰められた庭の隅に真鍮のテーブルセットが目に映った。

　テーブルのすぐ脇には大きなヤマボウシの木があって、日陰になっているから、私が庭で遊んでいる間、義母はよくそこに座っていた。

　義母を振り返ると、必ず微笑んでくれた。