契約結婚のススメ
 どんな気持ちで私を見ていたのかな。

 ねえおかあさん。

 いつの間にか泣いていたらしい。涙が頬を伝い落ちて、慌てて手で拭う。

 感傷に浸ったところで過ぎた日々は戻らないのに。

 気持ちを切り替えて自分の部屋に向かった。

 カチャっと扉を開けると。

 え――。

「おかあさん?」

 義母が私の机に突っ伏すようにして寝ていた。

 ハッとしたように、義母は上半身を起こす。

 あ、起こしちゃった。

「あ、ああ、陽菜。来ていたのね」

 義母が伏せていた机を見ればアルバムが広がっている。

 家族写真だ。

「懐かしてね、つい。ごめんなさいね、勝手に入ってしまって」

 気恥ずかしそうにまつ毛を揺らす義母は、本棚にアルバムを戻す。その後ろ姿はどこか頼りな気で、痩せたように見えた。

 おかあさん……。

「あ、お土産買ってきたの。食べよう」

「そう。ありがとう」


 この邸は広い。私が結婚して出ていっても父がいれば違っただろうが、義母ひとりでは寂しいのではないか。
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