契約結婚のススメ
「まだ結論がでないから、当分はここにいようと思うの」

「わかった。でも、おかあさん寂しくない?」

「大丈夫、ハウスキーパーさんもいるし、枇杷亭のシノさんがここに住むようになりそうなの。実はもう時々泊っているのよ」

「え、シノさんが?」

 シノさんとはベテランの仲居さんで、責任者のような立場にいるはずだ。

「息子さんがね、結婚するらしくて。でもシノさんは一緒には住みたくないんですって。それなら一時的でもここに住んだらいいわって言ったのよ」

「そうなの。それはよかった!」

 シノさんには私も子どもの頃からとても可愛がってもらっていた。

 それにこの邸にば、昔住み込みの従業員が使っていた部屋がいくつかある。シノさんひとりくらい増えてもなにも困らない。

 よかった。本当に。

 おかあさん、美加はどうなってるの? 叔父さんがこの家に来ないのは、本当は叔父さんから枇杷亭を取り上げるためじゃないよね?

 一貴さんが役員になったのだって、美加のためだったりするの?

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