契約結婚のススメ
 そんな疑問に蓋をして、久しぶりに義母に甘えた。

 義母を信じられずにいるより、信じて裏切られるほうがいい。だって、義母は大切な私のおかあさんだもの。

「おかあさん、私がいなくて寂しかった?」

「ええ、そりゃそうよ」

 義母の笑顔にホッとした。

 私はずっと寂しかったんだと思う。この笑顔が見られなくて。

 結局私は泊っていくことにした。

 シノさんが帰って来たのは私や母が夕食もお風呂も済ませた十時過ぎだった。この時間となると遅番だったのだろう。

「お疲れさまです。シノさん」

「お嬢さま、いらしてたんですね」

 シノさんはうれしそうに私の手を取る。

 仲居の責任者である彼女は、板長とよくここに来て父と会議をしていた。

「すっかり奥様になられて」

「あはは、なにも変わらないわよ。おかあさんは今お風呂に入っているの。お茶入れるわね」

 シノさんは自分がやると言って、あっという間に私の手から茶筒を取り上げた。

「ありがとう。ごめんね」

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