契約結婚のススメ
「いいんですよ。ご実家に来た時くらいのんびりしてください」

 シノさんはちゃんと温度を整えてお茶を淹れる。その様子を小さい頃から見ていたお陰で一貴さんに『陽菜が淹れるお茶は、お世辞抜きにおいしいな』と、褒められた。

 和食や緑茶や温泉が好きな一貴さん。ロサンゼルスではなにを食べているんだろう。

「こんな時間ですが、よろしければ」

 お茶の隣にシノさんが並べたのは羊羹だ。

「わーい。頂きます。今夜は夜更かしするつもりだし」

 これまで我が家で口にしてきたものは、どれもこれもおいしかった。料亭の料理の試食を兼ねていたからだ。

「不思議な色。柑橘系のいい匂いがする。この羊羹も料理長の試作?」

「ええ。金柑の水羊羹なんですよ。後味がさっぱりしておいしいんです」

 ベースは白あんなのか。ほんのりとオレンジ色の羊羹は甘すぎず、後を引く。

「ほんと、すごくおいしい。ねえ、シノさんお店のほうはどう?」

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