契約結婚のススメ
 相当我慢していたのだろう、シノさんの愚痴は止まらずしまいには泣き出すしで私は本当に驚いた。

 こんなシノさんを見たのは初めてだ。いつも落ち着いていて、仲居さんたちの相談に乗っている頼もしい人なのに。

 最後は義母に「陽菜は心配しなくていいのよ。私がなんとかするから」と慰められて、私は寝床に就いた。

 気づけば日付も変わっていて午前二時。

 ベッドに潜り込んだものの神経は高ぶったままでとても寝付けない。

 ふと、一貴さんの言葉を思い出した。

『東京の深夜一時過ぎなら、ちょうど仕事が終わった頃だな』

 ロサンゼルスは東京よりも十七時間進んでいるから、今は夜の七時頃だ。

 一貴さんは意外とまめな人らしく、ちょこちょこ連絡をくれる。

 朝起きてすぐに掛けるらしい。その頃は陶だまりにいてもちょうどランチタイムが落ち着いたひとときだから、私もちょうどいい。

 でも、今日はなかった。

 電話、かけてみようかな。

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