契約結婚のススメ
 日本時間の深夜なら、いつ電話してもいいと言われているし。試しにちょっとかけてみて、出ないようならすぐに切ればいいし。

 義母と久しぶりにゆっくり話をして、美加の件もなにか誤解があるのかもしれない。もしそうなら、もう少し彼に心を開いてもいいかも?

 えーい。酔った勢いだ。

 スマートホンを手に、深呼吸。アプリを起動して――。

 待つこと数秒、早くも後悔し切ろうとしたところで一貴さんが出た。

 彼の姿が画面に映し出されると、それだけで心臓が跳ねあがる。

「いま大丈夫」

『ああ。どうした? 眠れないのか?』

 一貴さんは室内にいる。外の様子はわからないけど、スーツ姿ではないから、もうプライベートな時間なのかな。

「お父さんの月命日だから、今日実家に帰ってきていて。久しぶりにおかあさんとお酒飲んでね」

『そうか。希子さんは元気か?』

「うん。ちょっと寂しそうだった」

 顔が見れて、声が聞けて。それがこんなにうれしいのはきっと酔っているからだ。

< 133 / 203 >

この作品をシェア

pagetop