契約結婚のススメ

 なにかあったのか?

 ジッと黒くなった画面を見たところで、切れた電話の向こう側はわからない。

「奥様ですか?」

 秘書のナオミがにやりと口角を上げる。

「ああ」

「残念です。お会いしたかった」

 ため息交じりに肩をすくめるのはもうひとりの秘書ピーターだ。

 ナオミは日系人だしピーターも日本語が堪能なので会話は筒抜けだったのだろう。冷やかすような視線を向けてきた。

「次は一緒に来るよ」

「ええ、楽しみにしています」

 と、そこでインターホンのベルが鳴る。ピザが届いたらしい。

「じゃあ、打合せの続きは、食べながらにしよう」


 テイクアウトのピザとサラダを並べる。

 とりあえず空腹が満たされればそれでいいという食事。なんとも味気ないなと、ふと思う。

 脳裏に浮かぶのは陽菜と向かい合って食べる食事だ。

 なにを食べてもおいしかったな。

「どうしました? 口に合いませんか?」

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