契約結婚のススメ
「いや。ワインでも飲もうかと思ってな。お前たちもどうだ。重要な話は済んだし、ちょっとくらいいいだろ」

 酒と一緒に流し込もう。食べなきゃ体が持たないし。

「ありがとうございます」

 今まで、食事の内容なんてどうでもよかった。

 好き嫌いがあるわけじゃなし、健康のために意識的に野菜を取るようにはしているが、あとは地元で出されたものを口に運ぶだけ。ずっと、そんな生活を送って来た。

 食事を楽しむようになったのは、多分陽菜がおいしそうに食べるから。

 ローマで出会った時もそうだった。

 うれしそうに瞳を輝かせながらドルチェを食べる彼女を見ているだけでなんとも心が温まり、気づくと笑みが浮かんでいた。

 そんなに美味しいか? と釣られるように食べてみたものの、最初はなにも感じなかったと思う。

『おいしいでしょう? ね?』

『ああ、そうだな。おいしいよ』

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