契約結婚のススメ
 多分この雑な造りのピザだって、陽菜が『おいしい』と言えばおいしく感じたんだろう。こんなふうに酒で流し込む必要なんてないんだ。

 それにしても陽菜、どうかしたのか?

 急に視線を泳がせて、無口になった。

『眠くなっちゃった。もう切るね』

 あれは嘘だ。あんなふうに唐突に眠気に襲われるなどありえない。

 せっかく楽し気に電話をかけてきたのに。

 LAに来てから毎日のように電話はしているが、今朝は電話をできなかった。

 昨夜は遅くまで残業で、出かけるギリギリまで寝ていたからかける余裕がなく、今日は声が聞けないかと思った矢先の電話だ。

 陽菜からかけてきたのは初めてだ。うれしかった。

 ほんのりと紅くした頬と目もとを緩ませて、酔った勢いでかけてきたとわかった。電話の背景は陽菜の実家の部屋だし、飲んだ相手が希子さんというから心配はないが。

「どうかしました? 奥様の声を聞いて、帰りたくなりましたか?」

「ああ、そうだな。早く妻の顔が見たい」

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