契約結婚のススメ
「森下、夕方一件打ち合わせがあったよな。キャンセルはできるか?」
『無理です』
即答かよ。
『実は急遽別件が。西海岸沖航行中のコンテナ船で火事が発生しているようです』
「わかった。今から戻る」
車に戻り早速陽菜に電話をかけた。
『お客様がおかけになった――』
電源を切っているのか。
こうなってはなりふり構っていられない。
車内のふたりの社員に「お前たち耳を塞げ」と告げた。
助手席にいる村上と、運転手の担当者がギョッとしたように振り返る。
「わかったな」
「は、はい」
スマートホンを手に、かけた番号は柳美加。
呼び出し音五回で美加が出た。
「俺だ」
『どちらの〝俺〟様かしら?』
「ふざけるなよ、お前、陽菜になにをした」
『え? 別に』
「いいか。今すぐ希子さんに誤解を解け。なんなんだあのSNSの写真は」
『ちょっと待って。なになのよ、いきなり』